第7章 トマトケチャップ用バリアーボトルの開発

2023年9月15日

開発に至った時代背景

カゴメ株式会社のプラスチック(ポリ塩化ビニリデン(PVDC)単層)ボトル入りのトマトケチャップが、初めて市場に出たのは昭和41年2月のことである。
クレハが、マヨネーズやケチャップ用のボトルを意識して研究を開始したのは、そこを遡る昭和36年頃であった。当時は、マヨネーズ容器のポリエチレン(PE)化を皮切りに、この種の食品容器のプラスチック化が急速に進展する機運にあった。
カゴメの社史によると、従来のガラス製の広口瓶のようにケチャップが瓶の内側に貼りついて残ってしまうことのない、無駄なく絞り出せる新しい容器を求める消費者からの要望に応え、また貿易の自由化によって輸入が開始される海外の有力企業の製品との競争に対処するために、ケチャップにプラスチック製のスクイズボトルを採用する構想が打ち出された。各種のプラスチックの中からPVDCが選ばれたのは、非常に酸化され易く変色しやすいケチャップの品質保持のために高いガスバリアー性が必要とされたためであった。クレハとしても、PVDCを糸から食品包装用フィルム分野へ展開し、更に用途開発を考えていた時期であったことから、共同研究に入ることになったのである。

基本的な成型技術の開発

当時、プラスチックについて知識のある方であれば、PVDCは成型容器には使えないということが常識であったと思う。昭和36年頃より基礎的な研究は進めていたが、技術的な問題を抱え、未だ包装容器として実用化に目処が立たない状況であった。そのような中、昭和39年の秋カゴメは、製品化を決定し、昭和41年春に120gプラスチックボトル入りケチャップの発売が決まった。
PVDCブローボトルの開発当初は、ダイレクトブロー成型での試作評価を行っていた。しかし、冬期を想定して内容物を充填し5℃に冷却したボトルは70cmの高さからの落下テストで殆どが1回でガラス瓶と同じように破損してしまい、包装容器としてはとても使えるものではなかった。強度を上げるためにはどうしても2軸延伸ブローでのボトル成型が必要であるとの判断に至った。
2軸延伸ブロー成型の基本は、クレハロン(クレハのポリ塩化ビニリデン樹脂の商標)フィルムと同様、先ずPVDCをパイプ状に押出成形し、冷却水のバスで急冷した。これを延伸温度まで再加熱し、先ず縦方向に引き伸ばし、次にこれを成型金型で挟み、パイプに針を差して圧縮エアーを吹き込み、金型に接するまで膨らませることにより横方向に延伸配向させることで強度を上げる成型方法である。実際にこのような方法で容器を作ってみると2つの問題があった。
1つ目の問題は、やはり低温での落下強度が不足していることである。勿論ダイレクトブローに比べれば格段に向上はしたのではあるが、クレハロンフィルムが縦横設定倍率に延伸され配向して強度が増すのに対し、ボトル成型の場合は、形状の制約から横延伸を十分にとれない箇所が発生し、その特定の部分が弱くなることは避けられなかった。この解決方法として使用原料自体からの改良、容器形状の変更を幾度となく重ね、その度に試作テストを繰り返し、原料、形状、成型条件を最適化することで目標とする実用に耐えうるレベルのボトルを得ることができた。
2つ目の問題は、ボトル底のシール方法である。一般のダイレクトブロー成型の場合は溶融状態のパリソンを金型で挟むだけで溶着するが、2軸延伸ブロー成形の場合、融点よりも低い温度で延伸するため、パリソンを金型で挟んでもシールされない。従って、別の手段でシールすることが必要になる。種々のシールメカニズムを組み込んで試行した結果、最終的には成型金型に高周波電極を組み込み、高周波シールをすることにした。

ボトル成型機の開発

昭和39年の秋、カゴメより正式に製品化の要請を受け、昭和40年より生産機の開発に着手した。当時、世の中には量産機としては水車型のロータリー成形機があったが、ポリエチレンなどに使用するダイレクトブロー成形機であった。
必要としたのは2軸延伸ブロー成型機であり、社内で開発をせざるを得なかった。その構造は直線的に金型を並べ、その一端から圧縮エアーを吹き込んで膨らませ、底部は金型内に組み込んだ高周波電極でシールする方式である。全てが新しいことずくめであり、且つ製作までの期間は短かったが、昭和41年2月には120gのPVDC単層の2軸延伸ブローボトルの供給を開始することができた。
幸いにして商品としての評判も良かったことから、昭和42年には300g入りケチャップが発売され、このボトル用として最初の成型機よりも生産能力の高い水平楕円ロータリータイプの成型機を開発した。昭和44年には500g用として更に生産能力を向上させたロータリータイプの成形機を開発し、全銘柄の安定供給体制を整えている。

ケチャップ用充填機の開発

カゴメからボトル供給の依頼を受けたことに続いて、ケチャップ充填機の開発要請を受けた。その理由には、軟質容器に80℃前後のケチャップを充填し、しかも口部は高周波シールで完全密封することを必要とする充填機であるためであった。商品化のためには充填機が不可欠であることから、株式会社トヤマキカイ様(現 株式会社澁谷工業様)の協力を得て成型機と並行して開発を進めた。
開発に当たっての重要ポイントは、ボトル内部の無菌性の確保のために、密封状態のボトルを供給し使用すること、高温充填後のボトルのライン適性が確保できること、糖分の多いケチャップの定量充填が確保できることであった。
生産開始時はトラブルも多く、カゴメの研究所や製造現場の方々には大変ご迷惑をおかけしたが、多大なご協力を頂き、昭和41年2月の生産に間に合わせることができた。

ボトル口部シールの変更

昭和41年2月以降、販売地域が拡大され、それに伴い口部シールでのトラブルが顕在化してきた。口部を高周波シールで完全密封したため、家庭で使用を開始する時には挟みで切る必要があった。ところが胴部が柔らかいため、挟みで切る時にボトルの胴部をにぎる手にも力が入り、注意をしないと切れた瞬間に中身が飛び出てしまうことである。この対策に急遽アルミ箔によるイージーピールを計画したが、当時はPVDCとイージーピールする様な接着剤が無かったため、接着剤の開発までも社内で行った。当然、充填機もそれに対応できる様に改造し、昭和43年にはほぼ現在のアルミ箔でシールするスタイルが完成したのである。

単層ボトルから多層ボトルへの転換

昭和48年には、他社からバリアー樹脂であるエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)を芯層にしたPE/EVOH/PEの多層軟質ボトル入りケチャップが発売されるとの情報が入った。
脅威に感じたのは、クレハのPVDC単層ボトルに比べて低温強度が強いこと、ボトル自体が少し硬く、充填ラインではボトルを袴に入れてガラス瓶と同じように扱うことが出来ることで、既設の充填ラインよりも高速の全自動充填ラインにかけることができることである。カゴメではこの高速の全自動充填ラインの導入を決定した。それに合わせて、昭和48年4月にカゴメより多層ボトルの供給依頼を受けた。多層化の技術についてはフィルムで研究を進めていたこともあり、これをボトルに応用して1ヵ月後にはPE/PVDC/PEの3層構成のサンプルを提示し、この構成での供給準備を進めることになった。

多層ボトル用成型機の開発

PE/PVDC/PEの多層ボトルはダイレクトブロー成型となるため、いままでの成型機は当然ながら使用できない。そのため新たにダイレクトブロー成型機を開発・製作することになった。開発するに当たり機器の仕様に目標を設定した。先ず1つ目は、既存成型機よりも大幅に生産性が高いこと。2つ目は、供給する全てのボトルが生産可能な兼用機であること。3つ目は、ボトルの密封を金型内で行うことである。今までの成型機の開発の経験もあり、設定目標をクリアーした成型機は昭和49年2月には完成し、生産体制も整え同年2月よりPE/PVDC/PEの構成での成型を開始した。依頼を受けてから1年後の昭和49年4月にはカゴメでの充填も開始された。

PVDC芯層からEVOH芯層へ

その後、ポリ塩化ビニルの残モノマー問題が世の中で大きな話題になったことと、芯層にPVDCを使用した場合、EVOHを使用したボトルに比べて低温強度が劣っていたことから、昭和51年にPE/EVOH/PE構成のボトルへと樹脂構成の変更を行っている。
また、PEとEVOHの間の層間接着力を向上させる目的で、昭和52年には現在のPE/接着樹脂/EVOH/接着樹脂/PEの5層構成のボトルへと変更し、現在に至っている。
その後部分的な構成の変更等はあるが、基本構成の変更は行っていない。


写真 昭和42年のケチャップ充填PVDCボトル

参考文献
1.カゴメ八十年史
2.呉羽化学五十年史
3.弊社OBの澤 祐司氏のメモ

(執筆者:塚本 肇、株式会社クレハ)

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