開発に至った時代背景と技術的背景
レトルト食品は、1955年から米国イリノイ大学で軍事用として研究が進められた。1959年から当時アポロ計画で代表される宇宙開発が脚光を浴びアメリカ陸軍(NATIC)研究所で検討され、1969年に打ち上げられたアポロ11号にレトルトパウチ食品が搭載された。しかし当時アメリカでは冷凍食品の普及が進んでおり、レトルト食品の商業化は大幅に遅れる結果となった。
わが国でのレトルト食品の歴史は、1964年頃から透明パウチでの商品開発がすすめられ、1968年に市販用としては世界で初めて透明の袋に入ったレトルト食品「ボンカレー」が発売された。そしてその翌年の1969年には、アルミ箔を芯層とした3層の遮光性のパウチによる「ボンカレー」が発売された。これにより衛生性、長期保存性、常温流通による経済性、短時間の再加熱で食卓に供せられる利便性・簡便性が消費者に大きく受け入れられ、レトルト食品飛躍の発端となった。その後、1970年代に入り、米飯類、ハンバーグ、ミートソースなど各種のレトルト食品が開発され、現在のレトルト食品の基礎を築き上げた。
製品の概要《製品写真》
写真1
発売当時のボンカレーレトルトパウチが半透明で、中のカレーが見えている。
写真1は1968年2月、世界初の市販用レトルト食品「ボンカレー」が誕生した当時の商品である。甘口(外装箱赤色)、辛口(外装箱黄色)の2種類があり、高密度ポリエチレン//ポリエステルの2層構造の透明フィルムを使用していたため、光や酸素の透過により商品が劣化した。そのため、賞味期限は冬場3ヶ月、夏場2ヶ月が限度であった。
その後1969年5月に遮光性、ガスバリアー性の高いアルミ箔を用いた、高密度ポリエチレン//アルミ箔//ポリエステルの3層構造のパウチを使用し、賞味期限を2年に延ばした「ボンカレー」が誕生し、全国に発売エリアを広げた。
写真2
パウチの芯層にアルミ箔を用いた1969年発売のボンカレー。
パウチが不透明になっていることがわかる。
製品を生むに至った新しい技術内容と開発のポイント
本来レトルトとは、加圧加熱殺菌釜のことを指し、その釜で加圧・加熱殺菌したパウチ詰食品をレトルトパウチ食品という。レトルト技術の研究は、米国陸軍が缶詰に代わる軍用携帯食としてのレトルトパウチ食品の開発を続けていた。しかし、米国でもその研究開発には時間がかかっていた。1964年、大塚グループはカレー粉の製造が主力の食品会社に資本参加し、ちょうどその頃、開発陣の目に留まったのが、米国のパッケージ専門誌に掲載された「ソーセージの真空パック」に関わる記事であった。この技術との出会いをきっかけに、「一人前入りで、お湯で温めるだけで食べられるカレー、誰でも失敗しないカレー」をコンセプトにレトルトカレーの開発がスタートした。ところが、発想は斬新であったが、開発は困難を極めた。レトルト食品は米国の軍事物資であったため、そのノウハウは入手不可能、全てを自分たちで開発するしかなかった。当時の大塚食品には包材もレトルト釜もなく、グループ会社が所有していた点滴液の殺菌技術を応用してレトルト釜を試作、パウチの耐熱性、強度、中身の耐熱性、殺菌条件などのテストを繰り返し行い、試行錯誤の結果、1968年に世界初の市販用レトルト食品として「ボンカレー」が誕生した。翌年には、中身の品質を長期間保持するパウチ構成としてアルミ箔を芯層としたものの商品化に成功した。
レトルト食品の場合、食品の中心部が120℃以上で4分以上に相当する条件で加熱されるが、通常、その殺菌条件を満たすために、120℃付近の湿熱下で約2.0kg/ c㎡の圧力を加えながら、20分以上加熱殺菌される。したがって、レトルト食品用の包材には、幅広い温湿度条件で安定して機能する優れた酸素バリア性が要求される。また、包材に用いる接着剤も特に高い耐熱性が求められる。
製品および包装資材・技術の後代への影響
初期の頃のレトルトパウチはフィルムシーラントに、耐衝撃性を向上させるために柔軟性を与えるエラストマー(ゴム質)を多くブレンドした高密度ポリエチレン(HDPE)が使用されていた。しかし、この内面フィルムのヒートシール強度や耐熱性が十分でなかった。現在では、レジンの重合技術、添加剤・接着剤の性能、フィルムのキャスティング技術の向上した、耐衝撃性、耐熱性に優れた無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)が使用されている。
従来、レトルトパウチは光と酸素を通さないことを目指してきたが、遮光技術の向上及び金属箔を使用しない酸素ガスバリアー性フィルムの開発に伴い、近年電子レンジ対応、金属異物検出適正、視認性、易廃棄性等の観点から、脱アルミ化が進んでいる。「ボンカレーネオ」は、新しいタイプのレトルトパウチとして、電子レンジで2分加熱するだけで食べられる「ボンカレー」として進化した(写真3)。
このように、異業種が生んだ「ボンカレー」は社会のニーズを取り込みながら、さらに進化を続けている。
写真3 電子レンジ加熱対応の「ボンカレーネオ」の外装箱とレトルトパウチ
製品・技術の記録、参考文献
・大塚食品㈱ボンカレー公式サイト 進化のあゆみhttp://www.boncurry.jp/history/
・編集 永井一清ら、最新バリア技術「バリアフィルム、バリア容器、封止材・シーリング材の現状と展開」、シーエムシー出版(2011)
・葛良 忠彦、日本包装学会誌、21(2)、p148-162(2012)
・軟包装の原点を振り返る 軟包装衛生協議会編 P96 p190-193
・三尾谷秀明 TRIGGER P29-31 1996 Vol15 No.2
・播磨六郎 New Food Industry昭和46年6月号
・村井 博 食品工業 昭和46年10月号
・三尾谷秀明 Monoマガジン1997 No.348 P235-239
(執筆:大塚食品株式会社 広報部)第4章 常温流通可能なロングライフ・レトルトカレーの開発