開発に至った時代背景と技術的背景
1950年代より食品包装にプラスチックフィルムが徐々に用いられるようになり、当時の包材の主流はセロファン/ポリエチレンの構成が主流であった。
1970年代からは自動包装機を使用した食品製造も始まった。このような背景から食品用包材に対して内容物の保護といった基本的な機能以外にも次々と新たな要求事項が生まれてきた。
取り扱うスナック菓子においては、製品への吸湿の防止、油脂の劣化防止が必須であり、かつてはガスバリアー性のあるPVDCコートOPP(KOP)を積層したフィルムを使用していた。しかしながら、光線による油脂の劣化対策が充分ではなく、更なる改善の必要性が出てきた。アルミ箔を積層したフィルムを検討したが、包装時にピンホールが発生し、包材のバリアー性に劣化が見られたことから、包装機械に対する適正も考慮する必要があった。このような中で、アルミ蒸着フィルムを包装資材として利用する包装技術が開発されていくこととなった。
製品の概要
図1に示す2つの写真は、ポテトチップス販売当時(左側)と現在のものの写真(右側)である。㈱カルビーの製品は一般に油菓子であり、その品質を保持するためポテトチップス販売当初より、バリアー性能のあるフィルムを使用していた。ポテトチップス販売当時のフィルムはKOP/PE/CPPという構成であり、バリアー性を保持した代表的なフィルム構成であった。右の写真は現在のパッケージである。現在では一般的になったアルミ蒸着フィルムを包材に積層するこの形態は1987年より初めてポテトチップスの包装に使用し、以降食品包装の分野で急速に普及していった。フィルム構成は、初期の構成にいくらか改善がなされ、最終的にはOPP/PE/VMPET/PE/CPPという構成に集約された。
写真1 ポテトチップスの包装形態
左側:ポテトチップス販売当時(1975年)
右側:現在(2012年4月時点)
問題解決のための要求仕様
ポテトチップス、エビセンなどは油を使用したスナック菓子であり、包装フィルムの水蒸気、酸素の透過を少なくすることがKOPフィルムを用いていた頃からの課題であった。油脂の酸化に対する光線の影響も非常に大きく、遮光性を持たせることも重要になっている。
アルミ蒸着フィルム採用時の包料に対しての要求事項は以下の通りである。
①酸素透過性が極めて小さいこと ②水蒸気透過性が極めて小さいこと
③光線による油脂の劣化を防止できること ④包装機械に適性があること
図2は、包装フィルムの光線透過率と油脂キログラム当たりの過酸化物価(ミリ当量)との関係を示したものである。フィルムの光線透過率が高くなると過酸化物価が10ミリ当量になるまでの日数が指数的に短くなることを示している。
図2 包材の光線透過率と油脂の過酸化物価
問題解決のための製造技術及び技術開発
要求仕様を充足するにはアルミ箔が有効であるが、この構成では接着強度劣化が発生した。表基材をセロファンに替え接着劣化を解決したが、実包テストでアルミ箔のデッドホールド性が縦ピロー充填には不適正で実用に至らなかった,要求仕様を満たすのは金属しかなく、当時は主に単体で使用していたVMCPPに着目しドライラミネーションで二層構成にし実用化に至った。しかし当時の接着剤は硬化と乾燥時間に問題があり、ドライラミネーションから押出ラミネーションの三層化の開発をした。VMCPPの三層化はアルミ面に樹脂を接着させなければならないので金属接着可能樹脂を選定し三層構成を開発し実用化した。同時にオーバーラッピングやパスタ加工に採用されていたVMPETの積層化の開発をはじめた。VMPETの積層化の問題点は従来の三層構成ラミネーション機では、アンカーコート(AC)が図3で示すように一層目しかできなかった。そこでPET蒸着フィルムを中間層で積層するためアンカーコートを五層間で三回可能とするラミネート機の開発をおこなった。この機械ラインの略図と積層略図を図4に示す。
製品および包装資材・技術の後代への影響
この技術は1990年代以降の食品包装分野に受け入れられ、日本のみならず世界に広まった。包装機械適性も良く、包装工程中のストレスにも耐性があり、バリアー性の劣化が小さく、さらにはガス遮断性も非常に良好でピロー包装機でのガス置換包装の普及に大きく寄与した。その結果、商品のシェルフライフの延長が可能となり、ライフスタイルの多様化にも貢献した。
この開発以降、PET以外のフィルムに蒸着加工が行われることとなり様々な分野でこの技術が利用されている。