開発に至った時代背景と技術的背景
日本は1945年の終戦の後、1950年代には早くも低開発国型の食生活から抜け出し、栄養改善が急速に進み、基本的に食料が充足されていった。この時期には、欧米などから食品の濃縮・乾燥技術や殺菌技術、包材の製造技術などが次々と導入され実用化されていった。中でも、塩酸ゴムやポリ塩化ビニリデンのケーシングによる魚肉ハム・ソーセージがヒットし、日本人の栄養改善に大きく貢献した。また、1950年代の後半には、忙しい世相を反映して即席麺や粉末ジュース、粉末・固形の複合調味料などが、開発されたばかりの優れた包材の「ポリセロ」(ポリエチレンの防湿性とセロファンのガス遮断性を利用した積層フィルム)で包装され、様々なインスタント食品に利用され、食品の「第一期簡便化時代」を迎えた。
食生活が大きく改善されていく中で、嗜好品の品質向上、包装の改善もなされ、研究勢力が比較的充実していた日本の伝統嗜好品であるお茶の製造・流通分野で、窒素ガスによるガス置換包装の技術が開発されていった。
製品の概要《製品写真》
緑茶のアルミ箔積層フィルムによる窒素置換包装
写真 (独)野菜・茶業研究所(旧農林省茶業試験場)の開発した緑茶(茶葉)「べにふうき」の包装形態
上の写真は最近のものであり、自立容器でジッパー袋になっているが、1960年代の中頃当時、アルミ箔積層フィルムで窒素置換包装する包装形態は全く新しいものであり、この技術は食品を軟包材でガス置換包装する走りであった。
当時の包材構成は、セロファン(#300)/アルミ箔(9μm)/低密度ポリエチレン(60μm)というものが代表的なものであり、その後順次改良されていった。
ちなみに、包装容器のガス組成が小型のガスクロマト装置で測定できるようになったのは1966年頃であり、1968年頃からは超小型のガスクロが広く普及し始め、簡単にガス組成が測定できるようになった。これにより、食品のガス置換包装が急速に普及していくことになった。
製品(食品、包装食品)を生むに至った新しい技術内容と開発のポイント
収穫した葉をすぐに蒸気で蒸して茶葉の酵素を殺して製造する日本方式の「緑茶」は、風味は良いが、空気中の酸素や光線により変質しやすく、これを防止することが重要な課題であった。「緑茶」の品質保持のためには、伝統的には茶箱が用いられ、お茶に湿気と光線を入れずに保存していたが、できれば酸素を除去することでさらに品質保持が図れることが研究によってあきらかにされた。
そこで、アルミ箔という不透明の包材で包装して遮光するとともに、ガス遮断性が完璧なアルミ箔を用いて湿気を防ぎ、さらに窒素置換により袋内の酸素を除去することによって優れた品質保持が図れるようになった。現在では、これを冷凍保存することによってほぼ完璧な品質保持が図られている。
日本独自の工夫は、真空包装機を用いて袋内を真空・脱気して、ここに窒素ガスを導入する方法を採用したことである。お茶の成分の酸化を防止して品質を保持するこの包装技術を開発したのは、1965年頃、農林省茶業試験場の古谷部長を中心にした研究グループである。この技術が生まれる背景には、同試験場のお茶の品質変化に関する基礎的な研究と、アルミ箔を用いた遮断性に優れた包材の開発と、ガス置換包装機の開発が挙げられる。
食品の製品を生むに至った新しい包装資材、その製造技術と後代への影響
この窒素置換包装した「緑茶」製品に用いられた包材は、既に定着していた防湿セロファン、アルミ箔と、ヒートシール材である低密度ポリエチレンの積層フィルムである。それまでのお茶の長期保存は、ブリキを張った茶箱であり、販売用はブリキの円筒缶(茶筒)が用いられ、短期の防湿だけのものはポリエチレン加工紙であった。
この技術は、1970年以降のお菓子類、珍味類、乾海苔などの乾燥・半乾燥食品を窒素ガスや窒素と二酸化炭素の混合ガスで置換して包装し、油脂の酸化や褐変、カビなどを防止するガス置換包装技術の発展の引き金となった。現在は、ガス置換用・真空包装用の包材は多様化され、4方シール袋、ピロー袋、ガゼット袋、ジッパー袋などのさまざまな形態と、材質的にはアルミ箔、アルミ蒸着の遮光・バリアー層と、強度を持たせるナイロン、ポリプロピレン、ポリエステルなどと、風合いを持たせる紙などを複雑に貼り合わせた包材が用いられている。これらのフィルム構成の一例を以下に示した。
PET(12)-印刷/PE(25)/Al(9)/PE(15)/ONY(15)/PE(16)/LLDPE(45)・(真空包装用)
PET(12) -印刷/PE(15)/VM-PET(12)/PE(15)/LLDPE(70)・・・・・(ガス置換用)
紙/PE(20)/印刷-OPP(20)/PE(12)/VM-PET(12)/PE(13)/LLDPE(60)・(ピロー袋)
参考文献
石谷孝佑: 茶の貯蔵・包装、「茶大百科」p845-858 (農山漁村文化協会 2008.2)
(執筆者 石谷孝佑、元農林省食糧研究所食品保全研究室)