第25章 食肉加工品の無菌化包装システム開発

2023年9月25日

1.無菌包装と無菌化包装1)

無菌包装における無菌(Aseptic)は、食中毒菌や病原菌が存在せず、常温流通下において腐敗や経済的損失をもたらす微生物が存在しない商業的無菌を意味する。無菌包装は、ロングライフミルク、果汁飲料、フルーツゼリーなどの液状、ペースト状の食品に応用されている。
一方、無菌化包装(Semi-aseptic packaging、Extended shelf life packaging)は、商業的無菌を保証できない固形食品において、その初発菌数をごく低いレベルまで抑えることにより、冷蔵で数週間程度の長期間にわたって品質を保持する包装を指す。
スライスハムやベーコンなどの食肉加工品には、後者の無菌化包装技術の応用が可能である。ただし、無菌化包装を行うにあたっては細菌数の厳格なコントロールが求められる。加熱食肉製品に関しては、製品の中心部を63℃、30分間同等以上の加熱処理をすることにより、大腸菌(E. coli )の陰性、サルモネラ属菌の陰性、黄色ブドウ球菌の1000/g以下という条件を満たさなければならない規格基準があるが、それだけでは不十分であり、食中毒菌ではないが流通過程における品質劣化につながる乳酸菌や芽胞細菌の排除まで考慮する必要がある。写真1は、現在市販されている食肉加工品の無菌化包装製品である。

 

包装アーカイブス_25章_図表001_写真1
写真1 スライスハムの無菌化包装製品
(左:深絞り真空包装、右:深絞りガスパック)

 

2.食肉加工品の無菌化包装システム2)

1970年代、日本では食の欧米化が進み、それまでに見られなかったハムやベーコンなどの食肉加工品が多く食べられるようになった。また、電気冷蔵庫の普及率がほぼ90%に達し、包装食品を家庭内で、ある程度保存できる環境も整ってきた。そのような状況の中で、アメリカで開発された食肉加工品の無菌化包装食品が導入され、日本における食肉加工品のコンシューマーパックを発展させるきっかけとなった。

1)オスカー・マイヤー社のインライン無菌化包装システム
1960年代、アメリカのオスカー・マイヤー社は、スライスハムやベーコンのコンシューマーパックの製造において、バイオクリーンルーム内に設けた包装工程の中でプラスチックシートを製造し、同一ラインの中で食品の包装までを一貫して行う無菌化包装システム(図1)を実用化した。包装には、硬質PVCシートとPVDC/PVC系の柔軟なシートを組み合わせた真空包装が採用されていた。また、それらのシートは180℃以上の高温で押出し加工されるため、加工直後は完全な無菌状態になっている。したがって、シート製造から包装までを一貫したインラインで実現するオスカー・マイヤー方式は、包装材料の無菌性を保証する上でも非常に優れたシステムであった。

 

包装アーカイブス_25章_図表002_図1 米国オスカー・マイヤー方式によるインライン無菌化包装システム2)
図1 米国オスカー・マイヤー方式によるインライン無菌化包装システム2)

 

(2)オフラインによる無菌化包装システム
オスカー・マイヤー方式は、包装材料の無菌性を保証する点で理想的であったが、例えば内容物を供給する切れ目などで包装工程が中断した場合、シート製造工程を止めることができないので、シートのロスが出やすいという問題があった。また、シートの製造は、数日間の連続生産が常識であるが、食肉加工は連続生産が難しいので、職種間のギャップによる不具合もあった。
そこで、上記の課題を解決するために、あらかじめ無菌的に製造されたシートを用いて製品の無菌化包装を行うシステムの研究開発が行われた。その草分けとなったのが、呉羽化学工業㈱(現㈱クレハ)と大森機械工業㈱のコラボレーションによる連続スキンパック包装機を用いたオフライン方式の無菌化包装システムであった。本用途向けの共押出しシートは、食肉加工工場に設置されているバイオクリーンルームと同様のNASA規格でクラス10,000レベルの清浄な環境で製造されたものであるが、これは、シートの押出し後、定寸にカットしてボビンに巻きとる間の、空中浮遊菌の落下による汚染を防止するための措置である。そして、輸送中の微生物汚染を防ぐために、シート製品には厳重な外装が施されて食肉加工会社に供給された。以後、食肉加工品の無菌化包装は、図2のようなオフライン方式が主流となり、現在に至っている。

包装アーカイブス_25章_図表003_図2 オフラインによる無菌化包装システム 1)
図2 オフラインによる無菌化包装システム 1)

 

3.包装形態と材料

包装形態については、初期のスキンパックから、深絞り真空包装、深絞りガスパック、トレーガスパック、縦ピローガスパックなど、多様化が進んでいる。製品は、真空包装のものが多数を占めるが、薄切りのスライスハムのように真空包装すると肉が結着しやすいものについてはガスパックが採用されている。
包装材料としては、EVOHをバリアー層とする多層シートがよく用いられており、例えば、PET/NY/EVOH/ポリオレフィンのような構成のものがある。食肉加工品には深絞り包装が多用されているが、これらの用途向けの多層シートの製造には、深絞り成形性に優れ、層厚みの調整の自由度が大きいTダイ法が好ましいといわれている。真空包装用、ガスパック用の絞り側シートには、以前は、それぞれ120μm、300μm程度の厚さのものが使用されていたが、最近は、1パックあたりの内容量が減っていることもあり、それぞれ70~100μm、200μm程度まで薄膜化が進んでいる3)。

 

参考文献

  1. 西野甫: 食肉製品の無菌化包装、「無菌包装の最先端と無菌化技術」(高野光男、横山理雄、近藤浩司 編)、サイエンスフォーラム、p.372-381 (1989)
  2. 上田和男:共押出しフィルムとプラスチックシート、「無菌化包装食品の製造管理マニュアル」、サイエンスフォーラム、p.191-195 (1981)
  3. 石井和秀:深絞り用包装材の近況、ジャパンフードサイエンス、50 (10)、53-57 (2011)

(執筆者:田中幹雄、株式会社クレハ)

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