第18章 バーモントカレーのパッケージ

2023年9月21日

背景

18世紀にインドからイギリスに伝わり、そこで独自にアレンジされたイギリス式カレーが1870年頃に日本に伝わったとされている。日本では1900年代に国産のカレー粉が発売された後、1910年代にカレーライスの全国普及とともに、家庭でも簡単にカレーが作れる粉末状の即席カレーが発売、さらに1950年代にインスタント食品がブームとなって固形の即席カレー(カレールウ)が登場した。カレー粉はいくつかの香辛料を細かく粉砕し混合したもので、これと小麦粉、調味料などを混ぜ合わせたものが粉末即席カレーである。またカレールウは、カレー粉、小麦粉、油、調味料などを加熱調理し、粘性のある液体を金型に流し込み、冷却固化させたものである。

一方、当社は1913年(大正2年)に薬種化学原料店「浦上商店」として創業し、1921年(大正10年)には瓶詰めのカレー粉も扱うようになった。1926年(大正15年)に稲田食品製造所から即席カレー粉『ホームカレー』の商標権、営業権、工場を譲り受け、オリジナルの粉末即席カレーを発売、カレー業界に参入した。1928年(昭和3年)に商品名を『ハウスカレー』と改め、その後、即席カレーは粉末から固形へと進化し、1960年(昭和35年)に『印度カレー』、1963年(昭和38年)に『バーモントカレー』を発売した。

アーカイブ図1

バーモントカレー誕生

当社R&D部門の研究部(現ソマテックセンター)において、子供と若い女性をターゲットに、「大人も子供も一緒に食べられるマイルドなカレー」の研究開発をスタートし、当社創業50周年にあたる1963年、カレーは辛いものという常識を覆す『バーモントカレー』を発売した。価格は、当時の即席カレーよりも10円高い60円とし、「リンゴとハチミツ」「美容と健康」をキャッチフレーズに、集中的にテレビCMを流すなど、大々的に宣伝活動を行った。ネーミングはアメリカ東部にある長寿で有名なバーモント州に伝わる、「リンゴ酢と蜂蜜を水に混ぜて1日数回飲む」という「バーモント健康法」に由来している。

カレーの斬新さは言うまでもないが、パッケージにもかなりこだわり、カレー業界に“包材革命”を起した。カレールウを型に入れて型抜きする金型方式からルウを直接トレイ(容器)に充填する容器方式に変更し、容器はエンジニアリング・プラスチックの一種であるポリカーボネート(帝人化成の「パンライト」)を採用した。高価なプラスチックであったが、カレールウの原料となる香辛料の香りや精油成分を遮断するには最適な材料であった。この材料は非晶性樹脂であり、耐熱性(実用温度範囲)は-40~120℃、耐衝撃性はガラスの200倍と言われ、温度や水分の影響をほとんど受けないなど、性能的に幅広くバランスのとれた材料であり、蓋材のフィルムにも採用した。

容器は、樹脂のペレットを熱で溶融し、板状に押し出したフィルムをさらに熱で軟化させ、金型に密着させて成形(真空成形)したものである。容器はルウの自重で変形しないように形状や厚みを設計した。容器と蓋フィルムは、熱板で加熱溶融させながら圧着させるヒートシール方式で密封シールした後、輸送や保管中の落下衝撃を緩和させて容器やルウの割れを防止するために、「片面段ボール」と呼ばれる緩衝材で容器の周りをコの字形に包み、さらにその外側を紙箱(カートン)で保護した。また、カートンの表面印刷は、当時「オフセット印刷」が一般的であったが、新しい印刷技術である「グラビア印刷」を採用した。

アーカイブ図2

パッケージの更なる進化

1970年代にガス遮断性に富んだ新しい樹脂「エバール(EVOH)」が開発され、また世界最先端の多層シート押出成形技術を駆使した容器開発が盛んに行われたこと、さらに1980年代前半に社内でパッケージ合理化委員会が活動を開始したことなどがきっかけとなり、カレー業界では初めてのポリプロピレンとエバールの材料から成る多層容器を自社で開発し、1989年カレー容器を一斉に切り替えた。この容器開発では、お客様の視点に立ち、蓋を簡単に軽い力で開封できるように利便性を向上させており、また容器製造時の容器打ち抜き材を全てリサイクルすることで環境にも配慮している。以上のことから、本容器は“第二の包材革命”と言われ、今日のカレー業界のスタンダードとなっている。現在、食生活のスタイルや多様性に合わせて、個包装タイプの容器やコンパクトに折り畳める紙箱なども開発し、利便性をさらに向上させている。

アーカイブ図3

参考文献

ハウス食品㈱広報室:社内報「まいはうす」創業80周年特集(1993年)

ハウス食品㈱広報室:社内誌 創業90周年記念誌(2003年)

ハウス食品㈱広報・IR室:社内報「my House」(2012年)

(執筆者:大塚淳弘、ハウス食品株式会社ソマテックセンター容器包装開発部部長)

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