第16章 かつお削り節・フレッシュパックの開発

2023年9月21日

開発に至った時代背景と技術的背景

歴史的にみると削り節(花かつお)の文言が初めて登場するのは、1489年の室町時代中期である。かつお節製造法の基礎は江戸時代中期~後期に確立された。そして、大正時代に入ってから、広島県福山市の安部商店より初めて工業的な削り機にて削り節は販売された。しかし当時は紙袋入りであり、原料も鰯煮干しを主に使用していた。
戦後、昭和30年代後半よりの経済成長と共に消費者意識も変化し、これに対応し、削りぶしのJAS規格が昭和39年(1964年)に制定された。さらに昭和40年代になると、高級志向、自然食品への嗜好が高まってきた。ちょうどこの時期に合うように、当社が研究を続けてきた「かつお枯れ節」を削り加工し、窒素ガス置換をした『フレシュパック』が昭和44年5月に販売となった。

表

製品の概要

写真は、現在当社にて販売中の『フレッシュパック』である。開発当初の積層フィルムの構成はOPP22μm/PVA(ビニロン)20μm/PE65μmであった。販売量の増加に伴い、自動化ラインの開発を行った。並行してよりバリアー性の高い、当時開発されたばかりのエバールフィルムを採用し、1972年(昭和47年)より以下のフィルム構成へ移行した。
OPP22μm/EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体、エバール)17μm/PE65μm

製品を生むに至った新しい技術内容と開発のポイント

かつお節自体は大変に硬く、緻密な組織のため未包装状態でも1年間の賞味期間を有する。しかし、削り節に加工した直後より劣化は急速に進む。かつお節の香りは約320以上の成分が関与し、それらの香りの変化と脂質の酸化による削り節の劣化はまさに刻々と変化をする。そのため削り節の酸化を防止するには、酸素を除去し窒素ガス包装を行うことは有効な手段である。また水分の高い削り節の場合にカビが発生することが有り、窒素ガス充填は好気性微生物であるカビの抑制手段としては有効である。
安定したガス置換が可能な包装機の開発と改良が重要である。いかに酸素残存率を管理数値以下の製品にするか。販売開始のチャンバータイプから自動化ラインの包装機までガス置換率の向上とその安定化のため、当社においても大変な苦心をしたことである。
『フレッシュパック』は、当時の一般的な削り節に比較して、大きな違いを上げると以下の点である。
① 当時主流であった荒節を使用せず、より高品質の枯れ節を使用した。
② 当時、大袋入りが主流であったが、開封後に使いきっていただくため、内容量を5gとした。
③ 平削りではなく砕片状として、「だし」用だけではなく、ふりかけ易く、また食べやすい形状とした。
かつおパックが消費者に支持された要因と言える。

写真

製品を生むに至った新しい包装資材とその製造技術

1950年代(昭和30年代)に登場したセロポリの積層フィルムはその優れた防湿・ガス遮断性から多くの食品に利用されていた。当社も削り節類においても採用をしていた。しかし、セロポリフイルムの機能性や安定性を得るためは削った削り節を乾燥し、水分を一定の水分値以下にする必要性があった。このため、かつお節本来の良い香りは乾燥工程により劣化したものであった。
窒素ガス置換包装はかつお削り節の風味保持には有効であることは、アルミ箔積層フィルムを使用した試験では判明していた。しかし、シール噛みのチェックに不向きである上、内容物を見せるには適さなかった。そこで、透明袋としてOPP(ポリプロピレン)・ビニロン(PVA)・ポリエチレン(PE)の積層フィルムに注目し、研究を開始していた。その後1972年(昭和47年)より酸素バリアー性の高いエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH、エバール)が登場した。いち早く当フィルムを積層したフィルムに注目し、『フレッシュパック』への採用を決定したわけである。更に業界に先駆けて、昭和46年より小型のガスクロマトグラフを導入し、酸素残存率測定による製造管理を開始した。

製品および包装資材・技術の後代への影響

表1は、販売開始した翌年よりのかつおパック類の生産量と販売額である。昭和45年以降、爆発的にかつお節の消費量が急激に伸びている。1971年(昭和46年)頃になると他社の当市場に参入を始めた。販売金額でいえば70年から78年の8年間で166倍という脅威的な伸びを示している。このかげには当社は『フレッシュパック』に関する特許を行使しなかったことも大きく影響していると言える。
カツオ漁業からかつお節製造、削り製造そして販売などの各業界共に成長し、産業創出に大きく貢献したわけである。

書籍、研究論文
荻野目望:「削り節のガス置換包装による品質保持」ジャパンフードサイエンスVol.38、3月号1999年
荻野目望:水産加工品「鰹節・削り節」第八版食品産業辞典、上巻、日本食糧新聞社2008
新海豊一:削り節、「パック品の多様化に期待」PACKS6号、p80~84 1979年
宮下章:鰹節上・下巻 日本鰹節協会 1989年(上巻)、1996年(下巻)
榊原英公:かつお節・くん製品「水産物のにおい」新水産学シリーズ74、p72-82

(執筆者:荻野目望:株式会社にんべん、研究開発部)

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