第14章 ポリ塩化ビニル製ストレッチフィルムについて

2023年9月21日

概要

食品包装用ラップは、用途により一般家庭で使用される家庭用ラップ、レストランや食堂、出前包装などで使用される営業用ラップ、スーパーなどで使用される業務用ストレッチに分類されます。主に家庭用は塩化ビニリデン樹脂製、業務用はポリ塩化ビニル樹脂製が多く使用されています。
業務用ストレッチフィルムは1960年代後半にセルフサービス販売のスーパーマーケットの普及とともに広く使用され始めました。このスーパーマーケットの出現は、私達の日常生活や買い物に大きな変化をもたらし、特に生鮮食品は、適当な量をトレーに入れラップフィルムでパックして内容物が見られるように陳列し、セルフサービス販売でお客様に提供するようになりました。
また、電気冷蔵庫や電子レンジの普及に伴い、食堂、レストランや一般家庭で食品の冷蔵、冷凍時の包装や、食品の電子レンジでの加熱時の容器の蓋代わりなどにも用途が広がりました。
業務用ストレッチフィルムは、食品の新鮮さや風味を保ち、衛生的にお客様に提供する優れた特長を持っています。その特長とは、クリアーな透明性、光沢性や食品をすばやくフィットさせる自己粘着性伸縮性などです。 現在では食品加工現場、食堂、レストラン、一般家庭などでも手軽に巾広く使用されていますが、特にスーパー等の陳列販売用のトレーに自動包装機を用いて使用される場合が多いです。

写真1

歴史

塩ビラップは、昭和35年頃から、塩化ビニリデンラップ(サランラップ、クレラップ)とともに、市販されるようになりました。当初、塩化ビニリデン樹脂製や塩ビ樹脂製が主流でしたが、現在では、ポリエチレン(PE)系、EVA系、それらの多層フィルムなど素材は増えています。
塩ビ製ストレッチフィルムの特長は、透明性、光沢性、自己粘着性、伸縮性等に優れる点が挙げられますが、もう一つの特長にスーパー等でトレーに生鮮食品(精肉、鮮魚、青果、加工食品)をパックするストレッチ包装機に対する機械適性に優れている点があります。ストレッチ包装機は、主にトレーなどに生鮮食品をのせ、フィルムを引っ張りながら包装パックする機械で、このようなトレー/フィルムを組合せた包装形態は、昭和55年以降スーパーマーケットの隆盛期を迎えると急激に増加しました。
その後、スーパーマーケットが多店舗展開を図ると、食品のラッピングも高速包装機などの設備を備えた施設で大量・一括で行うセントラルプリパッケージング(CPP)の時代になり、現在に至っています。

写真2

品質

食品包装用ラップに要求される品質は、用途が食品包装にあるため、以下のような品質特性が要求されます。
①自己粘着性
トレーや容器や食品、野菜などにピタッとフィットする特性で、使用しやすさを示す重要な性能です。
②透明性、光沢性
食品や野菜、果物の商品価値を高めるため、ラップフィルムは中身が良く見える透明性ときれいに見える光沢性が必要です。
③ガスバリアー性(鮮度保持性)
適度の通気性と水分透過性が、包装した食品や野菜の呼吸を助けて鮮度を保ちます。
④カット性
包装機や人により食品をラップした後、フィルムをカットする際、塩ビラップは樹脂が非結晶性のため、カットしやすく、手でも機械でもフィルムが容易にカットできます。
⑤包装特性
スーパー等で食材をラップフィルムでトレーにラップする方法には、ハンドラッパーと自動包装機による方法がありますが、最近では自動包装機の性能が向上し、広く自動包装機包装が普及しています。塩ビラップは機械でのラップの切れやすさやトレーとの密着性などで包装機での加工特性が優れています。
⑥添加物の安全性
塩ビラップの安全性の問題は開発当初から細心の注意が払われました。当初は添加物に関するポジティブリスト(PL)が法的に存在しなかったことから、塩ビ製品を食品用容器・包装に使用する場合、常に米国FDAのPLが指針となりました。
その後、1967年に食品用容器・包装塩ビ業界の自主規格団体として「塩ビ食品衛生協議会(JHPA)」が設立され、そこが規定する原材料の「PL規格」が塩ビ製品の安全を確保するための指針となっています。
⑦合成樹脂規格適合性
塩ビラップは食品衛生法に基づき、厚生省告示370号の「食品、添加物の規格基準」に適合する事が定められています。規格は「一般規格」と材質別の「個別規格」からなり、その規格に基づき、カドミウム、鉛などの重金属や錫化合物、クレゾールリン酸エステル、塩化ビニルモノマ-などの含有を厳しく管理しています。

写真3

品種

現在、塩ビラップの種類とその用途は、以下の3種類に大別されます。また、業務用には食品用途に適応した特長を持つ品種も有ります。(冷凍用、きのこ用等)

表-1 塩ビラップの種類
表1

環境問題への対応

塩ビラップ業界は以前より、可塑剤や環境ホルモン等の環境問題に対応し調査・試験・研究を重ね、安全性担保策を徹底すると共に原材料にどのようなものを使用しているかラップ使用原材料をホームページにて開示しています。

① 可塑剤について
1981年に米国立ガン研究所が、塩ビ用可塑剤のDOPとDOAは発ガン性の虞があると発表したことがラップ業界におおきな影響を与えました。
そのため、わが国のラップ業界は世界に先駆け使用可塑剤DOAからDINA(アジピン酸ジ-i-ノニル)等の可塑剤(アメリカ食品医薬品局(FDA)認可物質)への代替のための調査研究を行いました。
その後、FDAからは正式見解として、DOP,DOAの規制は必要無しと公表されましたが1982年2月、塩ビラップ業界は可塑剤(DOA)の代替化、及び流通在庫も含めた製品の入替え作業を行い、自主対応を図りました。

②内分泌かく乱物質について
内分泌かく乱物質(いわゆる環境ホルモン)、人や動物の内分泌作用をかく乱し、生殖機能障害、悪性腫瘍等を引起こす可能性があるとして、環境省は1998年に「環境ホルモン戦略計画SPEED ’98」を策定しました。その後、環境省(2005年3月)からは「環境ホルモンの人への影響について確たる因果関係を示す報告は見られない」と報告しました。
その頃、塩ビラップフィルムから環境ホルモンの一つと当時いわれた「ノニルフェノール」が検出されました。塩ビラップ業界が調査したところ、ノニルフェノールを含んだ原材料は使用していませんが、塩ビ加工時の温度で安定剤の一部が分解し、ノニルフェノールが生成することがわかったため、予防措置として2002年2月、ノニルフェノールが生成されない製法に転換しました。

③塩ビラップ原材料及び添加剤の開示について
日本ビニル工業会は、塩ビラップフィルムに使用されている原材料名及び添加剤名をホームページに開示し、原材料の製品安全データシートを掲載して、塩ビラップの安全性を示しました。

(参 考)
軟質塩ビラップフィルムメーカー(日本ビニル工業会 会員)(あいうえお順)
・オカモト株式会社
・日立化成フィルテック株式会社
・信越ポリマー株式会社
・三井化学ファブロ株式会社
・デンカポリマー株式会社
・三菱樹脂株式会社
・日本カーバイド工業株式会社
・リケンテクノス株式会社

(執筆者:鈴木 環、日本ビニル工業会 業務部長)

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