第13章 低臭・低吸着シーラントを用いた液体紙容器の開発

2023年9月20日

開発に至った時代背景と技術的背景

1915年にアメリカで発明された液体用紙容器は、その後形状や機能に改良が加えられ、現在でも様々な用途で広く使用されている。1951年には画期的な四面体容器、テトラ・クラシックが誕生。1960年代には直方体(レンガ形状)のミルクカートン容器、長期常温保存ができるアセプティック容器が開発された。
1980年代後半、オレンジジュース成分の一つであるdーリモネン等のテルペン系炭化水素が紙容器の内側に積層されたポリエチレンに吸着(収着)されることが明らかにされ、それを改善する目的でいくつかの手法が試みられた。
一方、液体紙容器に清酒など嗜好性の強い中身が入るようになり、紙容器から発する臭気が味覚に影響を及ぼすとする指摘が起こった。このように、液体紙容器と中身との相互作用に関する議論が活発に行われた。

容器の概要

低臭・低吸着液体紙容器は、外観上はそれまでの液体紙容器とほとんど相違はなかったが、中身成分の収着を抑え、臭気の発生をできるだけ少なくするという機能面での改良に主眼が置かれた。しかし、それを実現するためには以下に示すように、容器に使う材料や構成面で大きな変更が必要となり、低臭・低吸着樹脂の開発のみならず、紙との積層技術や容器成形加工技術など多くの新たな取り組みが行われた。
容器の主な構成は、印刷/PE/紙/変性PE/低臭・低吸着シーラント、印刷/PE/紙/変性PE/Al箔/OPET/低臭・低吸着シーラント(多層構成)であった。本容器は、米国で実用化されたジュース類の他、日本では茶系飲料、ミネラルウォーター、アルコール飲料(ウィスキー等)で採用された。

開発に至った新しい技術とポイント

(1)収着抑制

中身成分の収着を抑制するため、容器の最内面に用いられる層の研究、開発が進められた。すでに酸素バリアー層として実用が始まっていたEVOHやポリエチエンよりも臭気が少ないことが知られていたPETが有力な材料であったが、熱によって容器を封緘する必要性から、ヒートシール性との両立が大きな課題となった。
EVOHのエチレン共重合比率を高める、あるいはPETの酸、またはグリコール成分を変性して結晶化を抑制することでシール温度を下げるといった検討が行われた。
1980年代後半、米国にてオレンジジュース用の紙容器の最内層にEVOHや共重合ポリエステルを使用した容器が実用化され注目を集めたが、日本では当時EVOHを清涼飲料と直接接触するシーラント層として使用することが法律上認められていなかったこともあり、共重合ポリエステルを中心に検討が進められた。

(2)臭気低減

一方、液体紙容器から発する臭気には、紙や最内面樹脂製造過程における未反応物、副反応物、熱分解生成物、酸化生成物、添加剤の揮散、溶出、分解物などに起因する様々な生成物、印刷インキや接着剤、溶剤などからの異臭があり、臭い成分の基となる低分子量成分の少ない樹脂の使用や、紙容器加工時の加工温度をできるだけ低くし、紙や樹脂からの熱分解生成物を抑制するなど様々な観点から策が講じられた。
これらの策に加え、上述の新たな最内層樹脂も臭気低減策として検討された。収着が少ない樹脂は臭気成分の透過性も少ないことから、樹脂そのものの臭気の少なさに加え、容器から発生する様々な臭気をブロックする効果も期待された。

製品を生むに至った新しい包装資材とその製造技術

低臭・低吸着シーラントを用いた液体用紙容器に用いられた包材は、既に紙容器として定着していた内外面をポリエチレンで加工したポリエチレン加工紙ではなく、液体が接する内面側に上述の低臭・低吸着性のシーラント層を加工した特殊加工紙を使用した。その中でも高いバリアー性が要求される製品に対してはアルミニウム箔などのバリアー層が設けられた。中でもアルコールなど紙への浸透性が強い液体を保存するためには、紙の接液端面を保護しないと容器として形状を維持することができないことから、紙の端面を折り返し直接液体に触れることを防ぐ技術であるスカイブ、ヘミング法が用いられたが、容器内外面に使用する樹脂が異なること、低臭・低吸着シーラント層の熱シール特性がポリエチレンのそれとは大きく異なっていたことから、樹脂の検討のほか、シール加工工程そのものを見直し、改良する必要があった。

製品および包装資材・技術の後代への影響

この技術は、日本では1990年代初めに製品展開が図られたが、容器加工性の難しさ、コスト的に割高であったことから、市場からは徐々に姿を消した。
しかし、製品成分の収着を抑制し、容器側からの臭気を低減させるという考え方は、以降も大きな課題として認識され続け、PETボトルや、さらにはダイアモンドライクカーボンやSiO2内面コーティングボトルの開発へと形を変えて広く発展することとなった。

書籍、研究論文

Partition Distribution of Aroma Volatiles from Orange Juice into Selected Polymeric Sealant Films.J.Food Science,Vol.55, No.1, p158-161 (1990)
包装技術 (1990.5)
食包研会報No.60 (1993.11)
機能包装実用事典(株式会社フジ・テクノシステム (1994.8)

(執筆者:今井隆之:凸版印刷株式会社)

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