開発に至った時代背景と技術的背景
20世紀は、産業が大きく発展し、物質的に豊かになった時代ではあったが、結果として地球環境は悪化する傾向となり、地球温暖化・資源の枯渇等の環境問題を招いた。21世紀における人類の大きな課題は、地球環境に与える負荷を如何に低減する事が出来るか、という事であろう。 日本では、1958年にブリキ材を使用した缶ビールが上市され、1971年より現在市場でみられるアルミ缶の製造が始まった。その後、ビール系飲料向け容器として、ビールの消費拡大とびんから缶への移行が進むことで数量は増加し、現在では国内のビール系飲料は100億缶程度に達する。しかし、現在のアルミ缶は、DI法(Drawing&Ironing)と呼ばれる加工法で製造され、その際には、アイアニング(Ironing)と呼ばれる『しごき加工』を行うため、大量のクーラント(潤滑剤)を必要とし、加工後それを洗い流す為に膨大な量の水と薬剤を使用している。その排水はそのまま流すことは出来ないために、廃棄物処理を行って固形廃棄物となる。そこで、これらの環境に対する負荷を低減すべく、環境問題を十分に考慮した材料及び容器製造プロセスの開発が進められた。
製品の概要
環境負荷低減を実現したアルミ缶『aTULC』(Aluminum Toyo Ultimate Can ) は、1991年に製品化された高機能・低環境負荷のスチール缶『TULC』(Toyo Ultimate Can )の技術を発展させ、2002年に開発された、ポリエステルラミネート・アルミ缶である。従来のアルミDI缶に比較して、アルミ原板・製造システムを変更することで大幅に環境負荷の低減が可能になった。 ポリエステルを内外面にラミネートしたアルミ材をDI缶と同様な加工を行うが、DI缶と違って加工時にクーラント(潤滑剤)を使用しないドライ成形のため、洗浄に用いる水及び固形廃棄物を大幅に削減することができ、洗浄工程がないことから廃水処理も不要となる。さらにポリエステルが内外面に被服されているため、内面塗装も不要なため、塗料・焼き付けによる二酸化炭素の排出量も大幅に削減することが出来る。
製品を生むに至った新しい技術内容と開発のポイント
製品概要にも示したように、環境対応というコンセプトで既に開発されていたTULCでは、スチール基材にポリエステルフィルムをラミネートした材料を使用して、ストレッチドロー・アイアニング成形による新しい製造システムを実用化した。 次のステップとして国内外で多くの飲料用に使用されているアルミ缶(通称アルミDI缶)製造時の環境負荷低減のための製造システムの開発に取り組んだ。開発のポイントは、環境対応と経済性である。環境対応容器が市場に受けいれられるためには環境負荷の低減だけではなく、当然ある程度の経済性が必要だからである。システムの開発にはコストを意識した新たなラミネート材の開発、及び新しい加工法の開発が必要であった。
(1)新たなラミネート材の開発 TULCでは、予め製膜されたポリエステルフィルムをスチール材にラミネートする事で金属缶に必要な耐錆性・加工性・内容物保護を確保したが、aTULCでは更なる経済性(製膜工程の省略)及び高加工性(適用樹脂の拡大)を追求するため、溶融したポリエステル樹脂を両面同時にアルミ材に直接コーティングする技術である押出しコートシステム(*DEC)が開発された。 *DEC : Dual co-Extrusion Coating system
(2)新たなドライ成形技術の開発 TULCでは、スチールを基材としたラミネート材のストレッチドロー・アイアニング成形によるクーラントを使用しない成形(ドライ成形)を実現したが、アルミ基材はスチール基材に比べ強度が低く、ビール用途については缶高さが高い500ml缶への対応が必要なことから、新たな成形法の開発が必要になった。結果として、経済性・加工性を検討する中で、システムの考え方はTULCと同じで、基本的な成形はDI法と同じとする事で、新たなドライ成形技術を開発した。もちろん、前述の材料開発によるラミネート材の開発があっての製造システムである。
製品及び包装資材・技術の後代への影響
アルミ缶製造工程においてaTULCシステムの開発により、下記工程図に示すとおり、洗浄水が不要となったことで固形廃棄物を、塗装工程が不要となったことで乾燥時に発生する二酸化炭素排出量を、削減することが出来た。更に、洗浄・塗装・乾燥の工程が削減されたことより全体としてコンパクトな製造ラインを構築できエネルギー消費量の削減も可能となった。
2007年にはタイ国でaTULCの製造ラインが導入されたが、導入プロジェクトは*CDM事業として日本政府に承認された。現在、中国にも導入され、今後の地球環境負荷低減への要求拡大に伴い更なる製造拠点拡大が望まれる。 (*CDM : Clean Development Mechanism)
また、aTULCは、環境負荷低減のみならず板材の外面にポリエステルフィルム層があるため、通常のアルミDI缶に比べ側壁の強度が向上することから、突起物等による側壁の穴あきなどの不良品の発生が減少する。この強度の向上分を利用して側壁の薄肉化による材料の使用量を削減することにも繋がると考えている。
(執筆者:飯田 有二、東洋製罐株式会社開発本部メタル容器開発部)